ペルチェモジュールの選択方法
電子機器アプリケーションで使用される一般的な温度管理ソリューションでは、対象物の冷却を熱交換器と流体の流れを使用して対処しています。熱交換器は、通常は電子パッケージ自体が熱交換器であるか、押し出し成型またはプレス加工されたヒートシンクがパッケージに付いています。空気は熱ソリューションで使用される最も一般的な流体で、自然対流またはファンによる送風で使用します。このソリューションではほとんどの場合、冷却されている対象物の温度は周囲温度より高く維持されます。ペルチェモジュールは、対象物を周囲温度以下に冷却するか、対象物を加熱または冷却コントロールすることで特定の温度に保つために設計された電子機器です。ペルチェモジュールの選択や仕様決めは決して難しくありませんが、このプロセスをスムーズに進めるためにはモジュール特性の基本的な理解があると役に立ちます。
解決すべき温度に関する問題
多くの電子部品では、低温の方が優れたSN比を得られたり、仕様にある温度を超えた高温での操作時には破損が発生しやすくなります。同様に、多くの化学反応でも、指定温度かそれ以下に保つことが条件とされています。このようなアプリケーションで、温度に関する問題の解決や、従来のヒートシンクやファンでは行うことができない周囲温度以下に対象物を冷却するために、ペルチェモジュールを使用することができます。さらに、ペルチェモジュールと適切な制御回路があれば、急激に変動している温度負荷の状況下でも、対象物を特定温度に保つことができます。
ペルチェモジュールの基本
ペルチェモジュールは、半導体ペレットが真中で分離している2枚の外部セラミック板を含みます。電流が半導体ペレット内を通過する時、この板の1枚は熱を吸収し(冷たくなる)、もう1枚は熱を放出(温かくなる)します。ペルチェモジュールの構造と操作についての詳細は、このブログでご覧いただけます。
ペルチェモジュールの選択や仕様決めをする際は、後のセクションで説明する以下の制約を理解しておく必要があります。
ペルチェモジュール内の熱伝達
ペルチェモジュール内を低温側から高温側へと伝達される熱量(Q)は、Wで表わされます。このパラメータは冷却される対象物によって、発生する熱となったり、冷却される対象物から周囲環境へと伝達される熱であったりします。理解しておいていただきたいのは、ペルチェモジュールは熱エネルギーを吸収する能力はありません。ペルチェモジュールは熱エネルギーを伝達しますが、その伝達されたエネルギーはモジュールの高熱側から消失させる必要があります。
ペルチェモジュール全体での温度差
ペルチェモジュールのデータシートで定義される温度差(ΔT)は、モジュールの2枚のセラミック板の外側表面で測定されます。ペルチェモジュールの板と外部システムの興味温度との間には、温度差があるという事は注意して理解しておく必要があります。以下の図はペルチェモジュール・システムに存在する、5つの温度が異なる可能性がある領域を示しています。
ペルチェモジュールの高温側の温度
ペルチェモジュールの特性も、動作温度と共に変化します。Same Skyのような一部のメーカーでは、1つ以上の動作温度における仕様データを提供しています。仕様データは、アプリケーション特有の動作温度向けとしては用意されていないかもしれませんが、最も近い温度のデータを参照してご利用いただけるはずです。
ペルチェモジュールの表面積
ペルチェモジュールの表面積は、通常は冷却する対象物の領域や熱消失に使用可能な領域によって特定されます。利用できる領域とペルチェモジュールの領域が一致しない場合は、低熱抵抗ヒートスプレッダーを使用して補正することができます。簡単なヒートスプレッダーはアルミニウムや銅で作成できます。
必要とされる駆動電流
ペルチェモジュールはLEDのように電流駆動型デバイスです。モジュールを制御された電流源と駆動し、その電流源が必要とされる負荷電圧を供給することができたときに、最も最適な駆動パラメータがスムーズに達成されます。これは、電圧駆動デバイスに対して特定の電圧を供給し、電圧源に必要な電流を供給させることと類似しています(すなわち、電圧をマイクロプロセッサに供給することで、電圧源が必要な負荷電流の供給がおこなえます)。
ペルチェモジュールは電圧源と駆動することもできますが、それでは熱流やモジュール全体の温度差の精密なコントロールがより難しくなります。
必要とされる駆動電圧
この電流源に適合する必要電圧は、ペルチェモジュールのデータシートと動作制約によって決定します。最大電流(Imax)および最大電圧(Vmax)は、モジュールの絶対最大定格値ではなく、動作制限です。推奨動作はこれらの制限の70%までです。なぜなら、この制限を超えるとジュール加熱が増加するにつれて熱吸収と効率が低下するからです。
適切なペルチェモジュールの仕様付けの例
以下の例は、あるアプリケーション向けにペルチェモジュールを選択する、あるいは仕様付けする手順を示しています。この例では、CP603315H ペルチェモジュールを使用します。
条件
- モジュール内の熱伝達:20W
- モジュール全体での温度差:20°C
- モジュール高熱側の温度:30°C(27°Cグラフ使用)
- 対象物の表面積:30 x 30mm
- このペルチェモジュールを通って伝達されたパワーを表す、垂直軸下側にある20 Wのところに水平に線を引きます。
- このペルチェモジュール全体で維持されている温度差を表す、水平軸下側にある20°Cのところで垂直に線を引きます。
- 水平線(1)と垂直線(2)の交点から、2.7 Aの駆動電流が補間されます。これがペルチェモジュールの駆動に必要とされる電流です。
- グラフの上半分の垂直線(2)と2.7 Aの交点に印をつけます。
- 手順4の交点から垂直線上部へと水平線を描くことで駆動電圧7.5 Vが補間されます。これが電流源に適合する必要電圧です。
概要例
- 選択したペルチェ・モジュール:CP603315H
- ペルチェモジュール内の熱伝達:Q = 20 W
- ペルチェモジュール全体で維持される温度:ΔT = 20°C
- ペルチェモジュールの高温側の温度:Th = 30°C
- ペルチェモジュールに電源供給するために必要な電流源:I = 2.7 A
- 電流源に適合した必要電圧:V = 7.5 V
- ペルチェモジュール内の熱伝達に加えてヒートシンクでのパワー消失P = 20 W
- ヒートシンクで消失する熱総量40 W;20 W 熱伝達に加えて 20 Wの電力
結論
ペルチェモジュールは、周囲温度以下に物体を冷却する必要がある場合、または特定の温度で物体を維持する必要がある場合に最適なソリューションとなります。優れた設計をおこなうためには、ペルチェモジュールの複数の選択肢と適切な特性データを備えたメーカーを選択することが重要です。信頼できるメーカーと協力することに加え、本投稿で概説された基本のようなモジュール導入や操作に関する複雑な詳細を理解することが極めて重要です。