ペルチェ・モジュールの信頼性に関する考慮事項
ペルチェモジュールは、熱電冷却器(TEC)あるいは熱電モジュール(TEM)とも呼ばれ、電力が印加されると熱を転送するしくみを持つ固体型デバイスです。多数のコンポーネントと同様、ペルチェ・モジュールの信頼性は、さまざまなアプリケーションで極めて重量になります。そのため、ペルチェ・モジュールの構造や適切な設置方法について基本的な知識を持っておくことが重要です。このブログ記事では、ペルチェ・モジュール構造の概要を説明し、その後一般的な故障メカニズムとTECの信頼性を向上させる方法について概説します。
ペルチェ・モジュールの構造
ペルチェ・モジュールは、稼働部品がなく、広域温度範囲内で動作する固体型デバイスです。ペルチェ・モジュールの構造はこちらのSame Skyのブログ内でも語られていますが、本議論を始める前に簡単におさらいしましょう。
ペルチェ・モジュールの構造は、半導体材料のプラスとマイナスにドープされたペレットが、電気的に絶縁されながら熱伝導性を持つ2枚のセラミック板の間に配置された構造をしています。金属の導電パターンがセラミック板の内側表面にメッキされており、半導体ペレットがこの導電パターンにはんだ付けされています。このモジュール構造では、すべての半導体ペレットを電気的に直列に、機械的に並列に配置しています。この直列の電気的接続によって目的とする熱効果を引き起こし、並列の機械構成によって1枚のセラミック板(コールド側)で熱を吸収し、もう1枚のセラミック板で放熱(ホット側)がおこなわれます。
ペルチェ・モジュールの故障メカニズム
ペルチェ・モジュールの最も一般的な故障メカニズムは、半導体ペレットか周辺のはんだ接合部の機械的な破損です。この破損は、最初のうちはペレットやはんだ接合部を横切って完全には波及しないという現象が見られ、デバイスの直列抵抗が上昇することで検出することができます。このペルチェ・モジュールの抵抗上昇は、モジュールの全体的な「効率」低下につながります。ただし、半導体ペレットやはんだ接合部を横切って完全に破損してしまった場合は、モジュールが完全に故障してしまいます。
機械的張力または剪断
典型的なペルチェモジュールアプリケーションでは、冷却対象物をモジュールのコールドプレート上に、ヒートシンクをホットサイド上に配置します。ヒートシンクと冷却対象物が、冷却オブジェクトとヒートシンクを支える他の機械的な構造なしにセラミック板に接着されている場合、機械的な故障が発生しやすくなります。ペルチェ・デバイスのみを使ってこの冷却対象物やヒートシンクを支える場合は、モジュール全体により大きな剪断応力の負荷がかかることがあります。ペルチェ・モジュールは、ヒートシンクとコールドプレート間の大きな張力や剪断応力には耐えることができないので、このような力がかかってしまうことで破損を招く場合があります。
ほとんどのアプリケーションでは、冷却するヒートシンクや対象物はペルチェ・モジュールをはさんでクランプします。ペルチェ・モジュールはこのクランプからの大きな圧縮応力には耐えることができ、同時にクランプは対象物とヒートシンク間に発生した剪断応力や張力を吸収します。このため、この機械構造が使用されています。
機械的圧縮応力
ペルチェ・モジュールは大きな圧縮応力には耐えることができますが、冷却するヒートシンクと対象物は、クランプ力がペルチェ・モジュール全体に行き渡る形で設置する必要があります。不均一なクランプ力はトルクだけでなくセラミック板間に圧縮応力を発生し、機械的故障の原因となる可能性があります。
ペルチェ・モジュール全体にわたる圧縮性クランプ力を生成するような機械的な制限は、慎重かつそれが均等になるような方式で検討する必要があります。こうすることで、モジュールに適用されるトルクストレスを最小限に抑え、破損の可能性を最小限に抑えることができます。
温度サイクル
ペルチェ・モジュールを構成するために使用されるセラミック板と半導体ペレットには、熱膨張(CTE)の係数が関わっています。セラミックと半導体のCTEが一致しないと、モジュールの加熱または冷却時に、半導体ペレットとはんだ接合部内で破断を引き起こす可能性がある機械的なストレスを発生させてしまいます。ペルチェ・モジュールの絶対温度の変化だけでなく、デバイス全体の熱勾配や温度の急激な変化も、CTEによる機械的ストレスの原因となります。大きな温度勾配のある極端な温度や、高い温度スルーレートを持つ環境での動作は、機械的ストレスを増大させ、デバイスの故障へとつながります。
汚染物質
ペルチェ・モジュールの半導体ペレット、はんだ接合部、導電パスは、外部からの汚染に曝されることもあり、これもまた破損の原因となります。汚染への曝露を最小限に抑える一般的な対応策は、モジュール周辺、2枚のセラミック板の間の周辺にビーズ状のシーラントをアプライすることです。シリコンゴムは材料自体の持つ機械的な柔軟性から一般的にシーラントとして使われています。しかし、過酷な操作環境では、シリコンゴムは防湿層としては効果的ではない場合もあります。エポキシは水蒸気濃度が高い場合の境界シーラントとして使用できます。しかし、エポキシは通常、シリコンゴムのような機械的な柔軟性持ち合わせていません。
ペルチェ・モジュールの信頼性の改善
上述の通り、機械的ストレスは、ペルチェ・モジュールのはんだ接合部や半導体ペレットに亀裂を生じさせる可能性があります。ペルチェ・モジュール製品ファミリに適用されているSame SkyのarcTEC™構造は、熱疲労の影響に耐える独自の構造を持ち、モジュールのパフォーマンス、信頼性、寿命を向上させます。まず、モジュールのコールド側のはんだ接合部を導電性樹脂と交換します。この樹脂は、はんだと比べて機械的弾性が大きいことから、従来のペルチェ・モジュール構造で発生するストレスや破損を最小限に抑えることができます。arcTEC構造内のその他のはんだ接合部は、一般的に使用されている低温のビスマスはんだ(BIcap、138°C)ではなく、高温のアンチモンはんだ(SbSn、235°C)を使用しています。アンチモンはんだはビスマスはんだよりも機械的ストレスに強く、ペルチェ・モジュールの信頼性改善に役立ちます。Same Skyのペルチェ・モジュールは、シリコンゴム防湿層も使用しており、機械的な柔軟性も加わります。エポキシなど、その他の防湿層もご要望により使用可能です。
以下の試験は、arcTEC構造の信頼性の改善度を従来のペルチェ・モジュールと比較したものです。抵抗が増加するにつれて破損度も増加することから、このチャートは熱サイクルが増すにつれ、従来のモジュール構造では抵抗値が急速に上昇しているのに対し、arcTEC構造では比較的一貫したパフォーマンスとなっていることを示しています。
結論
動作条件に大きく依存することから、ペルチェ・モジュールの信頼性を定量化することは困難です。しかし、この信頼性の劣化に貢献する多くの要因については多くの意見が出ています。一部の要因はモジュールの機械的な設置に関連しており(剪断応力やトルクストレス)、他にも動作条件(温度、温度勾配、温度のスルーレート)に関連した要因もあります。また、一部のアプリケーションでは化学汚染も問題となります。Same SkyのarcTEC構造で使用されているようなペルチェ・モジュールの改善されたアッセンブリー技術が、機械的な故障メカニズムの軽減に役立ち、信頼性の向上に貢献します。Same Skyは、お客様のアプリケーションの特定ニーズに最もよく適合する、様々なサイズと温度定格を備えたペルチェ・モジュールを提供します。