MEMSとエレクトレット・コンデンサ(ECM)マイクロフォンの比較
数年前におこなったマーケティングキャンペーン、「Can you hear me now?(私の声が聞こえますか?)」を覚えていますか。ウェアラブルからホームアシスタントまで、今日では様々なデバイスが絶え間なく設計されており、そのデバイスが置かれた環境を「聞く」ことが求められています。マイクロフォンで使われている最も一般的な2つの技術は、MEMS型とエレクトレット・コンデンサ型の構成です。正しいマイクロフォンを使えば、どのようなアプリケーションのどのような音でもほぼ正確に捉えることができます。この2つの技術は同様の原理で機能しますが、どちらを選択するかについては多くのユースケースがあります。ここでは、これを念頭に置きながらMEMSとエレクトレット・コンデンサ・マイクロフォンの基礎をレビューし、技術の違いの比較、さらには各ソリューションのメリットについて概説していきます。
MEMSマイクロフォンの基礎
MEMSマイクロフォンは、MEMS(Micro-Electro-Mechanical System;微小電気機械システム)コンポーネントがプリント回路基板(PCB)上に配置され、それが機械的にカバーで保護された構造をしています。マイクロフォンに音が入るようにこのケースには小さな穴が1つ開けられています。トップカバーに穴がある場合はトップポート型、PCBにある場合はボトムポート型として指定されます。MEMSコンポーネントは、多くの場合機械振動板とともに設計され、半導体ダイ上にマウントされた構造を持っています。
このMEMS振動板がコンデンサを形成し、音圧波が振動板を動かします。MEMSマイクロフォンは通常オーディオアンプとして機能する2つ目の半導体ダイを持ち、MEMSの変化するキャパシタンスを電気信号へと変換します。アナログの出力信号を希望する場合は、オーディオプリアンプの出力がユーザーに供給されます。デジタルの出力を希望する場合は、オーディオプリアンプとして同じダイ上にアナログ‐デジタル変換器(ADC)が含まれます。MEMSマイクロフォンがデジタルエンコーディングに使う共通のフォーマットがパルス密度変調(PDM)です。これは、クロックと単一データラインのみの通信を可能にします。レシーバー側のデジタル信号のデコーティングは、データの単一ビットエンコーディングであることから簡素化されています。デジタルI²S出力は、内部デシメーションフィルタを含む第3のオプションで、マイク自体で処理を完了することができます。つまり、マイクはデジタル信号プロセッサ(DSP)またはマイクロコントローラに直接接続でき、多くのアプリケーションでADCまたはコーデックの必要性を排除します。
エレクトレット・コンデンサ・マイクロフォンの基礎
エレクトレット・コンデンサ・マイクロフォン(ECM)の構成は下図の通りです。
エレクテッド振動板(固定表面荷電を持つ物体)が誘電板付近に配置され、MEMSマイクロフォンと同様、誘電体としてギャップを持ったコンデンサが形成されています。エレクトレット振動板を動かす音圧波によるキャパシタンス値の変動によって、コンデンサ上の電圧が変化します(ΔV = Q/ ΔC)。このコンデンサの電圧変動は増幅され、JFETによって内部からマイクロフォンのハウジングへと緩衝されます。外部負荷抵抗器とDCブロッキングコンデンサが外部のアプリケーション回路で使用されるのに対し、このJFETは通常、共通ソース・コンフィグレーションで設定されます。
マイクロフォン技術の違い
ECMマイクロフォンとMEMSマイクロフォンのどちらかを選択する際に、考慮すべき事がらはたくさんあります。MEMSマイクロフォンの市場シェアは、より新しい技術がもたらす多くの利点によって急速な成長を続けています。例えば、スペースが限られたアプリケーションでは、MEMSマイクロフォンの小型パッケージサイズが魅力的なだけでなく、アナログ回路とデジタル回路の両方が含まれている構造のお陰で、PCBのエリアと部品コスト両方の削減も実感することができます。アナログMEMSマイクロフォンの比較的低いインピーダンス出力とデジタルMEMSマイクロフォンからの出力は、電気的ノイズの多い環境のアプリケーションに最適です。振動が多い環境では、MEMSマイクロフォン技術を使うことで、機械的な振動がもたらす有害ノイズレベルを低減することができます。さらに、半導体製造技術の使用とオーディオプリアンプの包含で、厳密に適合し、温度に対して安定した性能特性をもつMEMSマイクロフォンの製造が可能です。これらの厳しい性能特性は、MEMSマイクロフォンを配列して使用するようなアプリケーションでは得に有益となります。MEMSマイクロフォン製造は自動装着機で簡単に取り扱われ、リフローはんだ付け温度にも対応できます。
MEMSマイクロフォンは急速に普及していますが、アプリケーションによっては、エレクトレット・コンデンサ・マイクロフォンが依然好まれるという場合もあります。従来デザインの多くはECMが使われているため、既存の設計の単純なアップグレードのようなプロジェクトでは、ECMを使い続けることがベストなケースもあります。ECMからアプリケーション回路への接続オプションには、ピン、ワイヤー、SMT、はんだパッド、バネ接点などがあり、エンジニアにデザインに対する幅広い柔軟性を提供します。ほこりや湿気からの保護が重要な場合は、物理的なサイズがより大きいECMで高いIP(Ingress Protection)定格を提供する製品を簡単に見つけることができます。均一でない空間感度を必要とするプロジェクトには、一方向性またはノイズキャンセリングのいずれかの指向性が本来備わったECM製品があります。また、緩やかに制御された電圧レールを持つ製品では、ECMの広い動作電圧範囲が好ましいソリューションとなるかもしれません。
プロジェクトに適したマイクロフォン技術を選択する
エレクトレット・コンデンサかMEMSマイクロフォンかの選択は、プロジェクト要件によって異なります。MEMSマイクロフォンはその本来備わった多くのメリットから人気が高まり続けていますが、ECMの幅広いパッケージングの種類や指向性のオプションは、依然としてさまざまなアプリケーションで好まれています。どの技術が選ばれたとしても、Same Skyは、お客様のプロジェクトが必要な音を「聞く」ことができるように、今後も様々なマイクロフォン製品を開発・提供し続けていく予定です。