PDMとI²Sの比較:MEMSマイクロフォンの各種デジタルインターフェースの比較
組み込みシステムの内にあるマイクロフォンは何十年も使用されてきていますが、MEMSマイクロフォンの使用は、発売以来急速に拡大しています。その成長は、家庭内、車内、ウェアラブルなど、消費者空間での音声ベースのアプリケーションの爆発的な増加によって複雑化しています。MEMSマイクロフォンのメリットとしては、設置面積の大幅な削減、電力要件の軽減、電気ノイズ除去の向上に加え、出力オプションが多くなることで、設計者やエンジニア側の柔軟性が増すことです。アナログのオプションもまだ利用可能ですが、パルス密度変調(PDM)とIC間音声インターフェイス(I2S)の一般的な2つのデジタルプロトコルの出力オプションがあります。
これらのインターフェースはそれぞれ独自の特性を持ち、どちらにもメリットとデメリットがあるため、エンジニアは適切な設計実装のためにそれらを理解しておく必要があります。エンジニアリングに関するすべての意思決定でも同じですが、これらの2つのプロトコルからひとつを選択するには、設計者がこれらの技術を検証し、各アプリケーションの条件下でどのプロトコルがより良く機能するかを理解する必要があります。この2つのテクノロジーを比較する際に考慮する必要がある重要な考慮事項は、次のとおりです。
- オーディオ品質レベル
- 電力消費レベル
- 部品表コスト
- 設計上遵守しなければならないスペースの制約
- ハードウェアを導入する動作環境
パルス密度変調(PDM)プロトコル
PDMは、アナログ信号電圧をシングルビットのパルス密度変調デジタルストリームに変換するために使用します。PDM信号は、オーディオに関連する典型的な横波というよりは、むしろ縦波のようなものですが、アナログ信号をデジタルで表したものです。
上図で見られるように、アナログ信号の振幅が増加するにつれて、ハイビットの密度が高くなり、それに応じて、デジタル信号は、アナログ信号の振幅の下端を表すときは、より長い時間、低い値で留まります。これにより、アナログ信号と直接相関しながら、デジタル信号の数々のメリットが得られる信号が生成されます。このPDM信号を作成するには、通常よりも高いサンプリングレート(3 MHzを超えるレート)が必要です。これは、デジタルパルスは、アナログ信号の振動の何倍もの頻度で発生しなければならないからです。
この信号のデジタル特性により、PDMはアナログ信号よりも電気的ノイズの多い環境に対してはるかにレジリエントで、信号が劣化した際のビットエラーの許容度が高くなります。長い伝送回線の静電容量が増大すると、不要な減衰やオーディオ品質の低下を引き起こす可能性があるため、高周波信号は距離制限を発生させます。また、この信号は、適切なコーディックを備えた外部DSPやマイクロコントローラによる更なる処理をおこなって、PDM信号をローパス・フィルタを通してより低いサンプル・レートにデシメートまたはダウンサンプリングする必要があり、その結果他のデバイスに使用できるようになります。このシンプルな基本概念が意味することは、PDMデバイス自体は2つの信号しか必要とせず、安価で設置面積が小さく、消費電力が少ない傾向にあるということです。しかしながら、このようなメリットは、PDMデバイスから来る信号を処理するために必要な追加の回路によってオフセットされてしまうこともあります。
IC間サウンド(I²S)
元々1980年代半ばに登場したI²Sは、もう1つの良く使われるインターフェースのオプションですが、最近はマイクロフォンなどの小型デバイスへの統合が進んでいます。その名からI2Cプロトコルとの関係性を呼び起こしますが、その類似性は全くの偶然です。PDMと同様、これはデュアルチャネル・インターフェースですが、類似しているのはこの点だけです。
I2Sプロトコルは、クロック、データ、「言葉選択」のラインを備えた、3芯シリアルプロトコルです。ここでの「言葉選択」は右か左かのチャンネルを表し、これはどのデータが現在送信されているかが関連します。PDMとは異なり、I2Sはエンコードやデコードを必要としない完全なデジタル信号です。ユニバーサルに求められるデータ伝送速度はありませんが、その最小速度は、伝送されるデータとその精度に依存します。もしオーディオのサンプルレートが、8ビット精度で44.1 kHzの業界標準である場合、モノラルのチャネルには少なくとも352.8 kHzのクロック速度が必要になります。ステレオのアプリケーションでは、705.6 kHzでは2倍になり、精度が変化すると最小伝送帯域幅も変化します。
サンプル周波数 * データ精度 * チャンネル番号 = 帯域幅
44,100 Hz * 8ビット * 2チャネル = 705,600 Hz
PDMはサンプルレートを下げるために外部コーデックが必須ですが、I²Sでは内蔵フィルターを通して内部コーデックを利用します。したがって、オーディオ信号のデータレートは、DSPに到着したときにはすでに許容レベルになっています。これにより、キャプチャされたオーディオデータを処理または調整するための追加のコンポーネントを設計内に追加することは必要ありません。これに基づくと、完全一体型でエネルギー効率の高い電池駆動動作が前提となる、価格に敏感な製品に関しては、I²Sが従うべき最善の道であると考えられます。このことは、統合化製品をできるだけコンパクトにする必要がある場合にも同様に有効です(ウェアラブル、ハンドヘルド機器など)。
最後に、PDMとI2Sのリソース要件を比較してみると、設計内にすでにDSP機能が統合されているかどうかに注意することが重要です。統合されている場合は、I2Sデバイスには3本の信号用ラインがあり、電力消費がより大きくなるため、基盤上ですでに利用可能なDSP機能を利用できるPDMデバイスよりも、よりリソース集約的となる可能性があります。
さまざまなアプリケーションに対するインターフェースの適合性
PDMは、優れたノイズ耐性とビットエラー耐性を提供することから、オーディオ品質が優先される多くのアプリケーションにおいて魅力的な存在です。それとは対照的に、I2Sが持つ、設置の容易さ、全体的な設置面積の少なさ、許容する部品数の少なさは、製品サイズや価格タグが主な懸念の一つとなる状況においてはメリットとなります。また、I2Sインターフェースは、より長い距離にわたってより良好な信号整合性を提供するので、マイクロフォンと処理回路が基板上で互いに近接できないような実装でも適用できるという点にも注意すべきです。しかし、I2Sは、特にケーブルやその他の伝送デバイスを介した伝送用には設計されておらず、多くのデバイスではインピーダンス・マッチングが適切に行われていないため、これは一概には言えません。入手できる部品、アプリケーションの需要、予想されるデータレートについて、ケースバイケースでさらに調査する必要があります。
結論
MEMSマイクロフォンは、最近の電子設計では一般的になりつつあり、最適なインターフェースを持つことが極めて重要です。どのインターフェースが特定のアプリケーションシナリオ用に最適化されるかを決定する際には、考慮すべき要因が多数あります。PDMは、ノイズに対して本来レジリエントであるため、困難なアプリケーション環境でも理想的な選択肢となります。逆に、I2Sを使用することで、さらに複雑化することなく、入力を付属のDSPまたは他のプロセッサ/コントローラデバイスに直接接続することができます。Same Skyでは、様々なオーディオシステム要件に対応可能なMEMSマイクロフォンの広範なポートフォリオを有しています。アナログ・インターフェース・ユニットに加え、さまざまなデジタル・インターフェース・マイクロフォンも簡単にご利用いただけます。